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絵の具は、教室の床、教室の机、自分の体全体に汚く混ざりこびりついている。そして、周囲の哀れな視線が玲子に降り注ぐ。
やっぱり――私は化け物じゃないか。
そんな様子の玲子をクラスメイトたちは、クラスの異物として扱った。それもこれも、玲子の異常はこれに留まらないからだ。
大人の「素直でいい子だね」という言葉の裏返しは、何でもいらないことを喋る嫌な奴だということ。玲子も素直でいい子だった。
いや、素直すぎるが故に多くの人の心をえぐった。時には、人を気遣う嘘というものが必要なのだ。でも、玲子は見たまま、思ったままのことを口に出してしまう。しかも、その言葉は悪意などはなく、悪いことを言ってしまったという自覚もないのだ。
それが一番の問題である。
だから、玲子は無自覚に加害者になることが多かった。マヤ先生に「また、悪口言ったのかい? ダメだよ、あまり人を傷つけては」と言われた。玲子はポカンとした顔で、いつどこで悪口を言ったのかまるで見当がつかなかった。
「彩ちゃんに謝ろうね? 玲子ちゃん」
一体何を謝るというのだ? 嘘はついていけないと、いつも大人は言っているではないか。
正直者のいい子で何が悪いのだ。
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