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「サウザー……サウザーっ……」
呼び掛けるけれど、さっき聞こえた翼の音はもう聞こえなくなっていた。
耳を澄ませ、サウザーが近寄ってきていないかを確認する。
でも、聞こえてくるのは私の呼吸の音だけ。
「サウッ……?!」
もう一度声を掛けようとした私は、踏み出した足の先がそれまでとは違う感触を持ったことに気が付いて、息を飲んだ。
湿り気を帯びた柔らかな芝はそこになく、代わりに膝丈ほどもあるストローのような細長い葉が、むき出しの脛を包みこむ。
地面は緩やかな丘になっている。
この丘を上れば、てっぺんにはリンゴの木が生えているはずだ。
サウザーの好きなリンゴの木。
……もしかしたら、そこにサウザーがいるかもしれない。
確信は無いけれど、リンゴの木のそばでサウザーが待ってくれている気がした。
霧は同じように深い。
弛く広がるその霧は、まるで世界の果てまでも覆い隠してしまっているみたいに暗く、重くて。
気がつけば私は、鳥肌の立った腕を抱き締めるようにして、そこに立ち尽くしてしまって。
「……いかないと」
やらなきゃいけないことを確認するように、私はそう呟くと、恐怖を振り払うため、頭を何度か振った。
丘の上を目指して、私は歩き慣れたはずの斜面をゆっくりと進んでいく。
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