第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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やっぱり村の人かもしれない。 そう思って、私は持っていたランタンを掲げた。 霧の中、痩せた顔が闇の中に浮かび上がる。 隈の浮いた瞼、厳しそうな口許、けれど、私を見下ろす瞳はとても優しげだ。 何回見ても……こんな人、見たことがない。 「あの……あなたは」 返事の代わりに、男の人は持っていたリンゴを差し出してきた。 「からかって悪かったな」 「えっ!……あ、ありがとう……」 やっぱりドキドキしてしまって、私はしどろもどろになりながらも、リンゴをようやく受けとる。 リンゴはとっても美味しそうで、ついさっき摘み取ったみたいだった。 良く見ると、少しだけ歯形が付いている。 少しだけ考えて、私は、そのリンゴを男の人に差し出した。 「は?」 男の人は、不思議そうに首をかしげる。 「あっ、あの……やっぱり、あげる」 どうしてか、このリンゴはこの人のものなんだ、そう思った。 「……すまんな」 男の人は、照れ臭そうにそう呟いて、私の手からリンゴを受け取った。
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