第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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男の人は少しの間リンゴを眺めてから、手にしたリンゴをかじった。 サクリと心地好い音をたてながら、男の人はリンゴを頬張る。 美味しそうに食べてるなぁ…… 私がじっと見ていたせいだろう、男の人が口を休めて、私の顔を見下ろした。 食べている最中の人を見つめるなんて、やっぱり失礼よね。 そう気がついた私は、慌てて視線を逸らした。 こうやって、ヒューゴおじさん以外の男の人と話すなんて久し振りだ。 …………ヒューゴおじさん…… 「あ!……あの……っ」 ヒューゴおじさんの顔がちらと脳裏に浮かんで、私は我に返った。 こんなところをヒューゴおじさんに見つかったら、きっと叱られてしまう。 村の人とは話しちゃダメ、村の人以外の人には近づいてもダメ。 私が毎日、ヒューゴおじさんに言われている事だった。 ここを出ていってくださいって、言わないと。 「こっ、ここ、私のっ……」 しどろもどろになりながら言いかけて。 見上げると、男の人は、私を見ていなかった。 男の人の視線は、どこか遠くに向けられている。 霧が深くて遠くは見えないはずなのに。 「どうしたの……」 「はああぁー!やっとついた!」 「きゃっ!?」 突然、霧の中から別の男の人が現れた。
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