第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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「私は……いい」 目を逸らしながら答えると、男の人は、なんだか傷つけられたような顔になった。 胸がちりちりと針で刺されるような気持ちになる。 男の人は伸ばしていた手を名残惜しそうに引くと、くしゃくしゃと自分の髪の毛を掻いた。 「…………そうか」 と言ったきり、何かを考え込んでいる。 私の答えが意外だったみたい。 「あっ……」 俯いた横顔に見覚えがあって、私は声が洩れた。 この人の目元、心配事がある時のサウザーによく似ている。 サウザーはトカゲだから、人間と似ているなんて言ったら怒られそうだけれど。 細められた目元と、無意識に寄った眉。 怒っているようにも、泣きそうになっているようにも見えるその顔に居ても立ってもいられなくなって、私は心を決めた。 「その、ちょっとだけ……少しなら、外に出てもいいよ」 「本当か?!」 「うっ……うん。案内してあげる」 つい赤くなってしまった顔を誤魔化すように腕で覆ったら、男の人はその手を掴んできた。 赤くなってしまった私の顔を覗き込む男の人は、とても機嫌が良さそうだ。 「では行くぞ!」 「えっ、もう?!」 あまりにも、突然すぎる。
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