第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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「…………それは、」 「え?あ、サウザーだよ!」 バッグから覗いていた緑色の頭をぽんと叩くと、サウザーはまるでこんにちはをするように、首を縦に揺らした。 縫い物は得意じゃないから、トカゲというよりも、鼻の潰れた猫みたいになってしまったサウザー。 「……置いて行け」 背の高い男の人は、サウザーとしばらく見つめあった後で、そう呟いた。 「え、どうして?」 「…………」 しばらくの間、私は、男の人と見つめ合ってしまう。 ……けれど、結局先に折れたのは男の人だった。 「好きにしろ」 それだけ言い残すと、男の人はもう私に背を向けて歩き出してしまっていた。 「あっ、私も行く!」 バッグにサウザーのぬいぐるみをむりやり詰め込むと、私は慌てて男の人の背中を追った。 1階にある調理場を横切って外に出ると、冷たい霧が頬を撫でる。 湿っぽくて、ぐずぐずと重い。 「準備できましたか、それじゃ行きましょうか」 背の低い男の人は、家の外で私達の事を待っていた。 玄関にある腰丈の木の柵に座って足をぶらぶらさせていたその男の人は、私達の顔を見てぽんと立ち上がった。 肩から下げていたバッグからは、なんだか重そうな音がする。
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