第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

27/45
前へ
/284ページ
次へ
冗談ですよと言うと、リュードお兄ちゃんはわざとらしく肩をすくめた。 「あの……あなたの名前はなんていうの?」 振り返り、私はもう一人の方の男の人に声を掛ける。それまでムスッとした顔で歩いていた男の人は、私に話し掛けられて、驚いたような顔をした。 「……俺は……」 困った顔で、私を見る。 なにかおかしなことを訊いてしまっただろうか。それとも、名前を言いたくないんだろうか。 「………………俺の名前は、」 言い掛け、けれど、男の人はそこで口をつぐんだ。 ハッとしたように視線を私から逸らし、辺りの闇を見渡している。 「誰か……いる?」 男の人と同じように、霧に包まれた森を見回して、私もようやく、どこか遠くの方から変な音が聞こえてきている事に気が付いた。 茂みを掻き分け、踏み鳴らし。 まるでそれは、誰かの足音。
/284ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加