3人が本棚に入れています
本棚に追加
その足音はゆっくりとした早さで、けれどどこかに逸れることもなく、まっすぐに私達がいるこの場所へと向かっていた。
「やはり来たか……離れるな」
後ろにいた男の人はそう言うと、壁を作るかのように、私の前に立ち塞がった。
こうして目の前に立たれると、背の高さがはっきりと分かる。
「……ぁ、」
男の人に背中を向けられた私は、これまで何度か嗅いだことのある匂いを嗅ぎとって、思わず声を漏らした。
…………血の匂いだ。
獣を捌いた時のような、鼻につく嫌な匂い。
それと同じ匂いが、目の前にいる男の人から漂っている。
男の人が身に付けているマント。
闇のせいで、ずっと黒いマントだと思っていたけれど、違う。
「……血、なの?」
無意識にそう呟くと、弾かれたように、男の人が振り返った。
マントだけじゃない。
この人の身体中から、血の匂いがする。
「………」
傷つけられたみたいな。
それとも、隠し事がバレたみたいな。
そんな、今にも泣きそうな顔をして、私を見下ろしている。
最初のコメントを投稿しよう!