第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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「あなたひとりだったら、悪いマモノに殺されているところだったかもしれないわよ」 「えへへぇ、そんなに頼りになりますかねぇ!!」 長い金色の髪が揺れて、女の人の眼差しを隠した。 髪を手櫛で掻きあげるため、持っていた籠から片手を離し、 籠の口が、私の方を向いて。 「……ぁ」 何気なく籠の中に目を向けた私は、中に入っていた物を見つけて、声を洩らした。 花柄の刺繍が施された可愛らしい籠。 そこから少しだけ見えていたのは、優しげな彼女にはそぐわない、武骨な鋼の弓と、鋭利な矢尻のついた数本の矢。 矢尻は、赤黒い液体で汚れていた。 「あら……」 女の人は、長い睫毛の伸びた瞼をすっと細め、にこりと笑った。 ……ううん、笑ったわけじゃない。 ただ、口元を持ち上げ、笑った振りをしただけ。 「本当に、目が離せないわね……お姉さんと、手を繋ごうか」 「チェルシー、どうしたんですか?」 「転びそうだったから手を繋ぐのよね。こんなに暗くて霧も深いから……油断したら、ナニかあるかもしれないし、ね?」 「う…………うん……」 「へえ、優しいんですねぇ!」 前を行くリュードお兄ちゃんが、相変わらず間延びしたように言った。
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