第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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森の中は魔物だらけだって、ヒューゴおじさんは言っていたけれど、家の周りのケッカイを出てからも魔物は出てくる様子がなかった。 もしかしたら私をケッカイから外へ出さないように、おじさんが嘘をついていたのかもしれない。 魔物への恐怖は無くなった。 その代わりに、私の右手を掴む女の人の指先からは別の恐怖が滲み出していた。 「大丈夫?顔が青いわ」 あたかも心配しているかのように、隣を歩く女の人が声をかけてくる。 私が首を振るたびに、女の人は「何かあったら言ってね、お姉さんが力になるから」と笑いかけてくる。 でも、やっぱり目元は冷たい。 「あはは、なんだか姉妹みたいですねぇ」 前を歩くリュードお兄ちゃんが言って、そのたびに女の人もニコニコとしながら、私の手を握る。 掌が汗で冷たくなる。 「そう言えば、名前聞いてなかったですよね」 「そうね、私はミラ。あなたはリュード君でしょ」 「どっ、どうして知ってるんですか?!」 大袈裟なほど、リュードお兄ちゃんが驚く。 さっきから何回も、私がリュードお兄ちゃんと呼んでいることさえ忘れているみたい。 この流れだと、さっき聞きそびれた名前を聞くことができるかも。 どきどきしながら耳を傾けていたけれど、ミラは私達の名前には興味がないみたいで、それきり会話を終わらせてしまった。 男の人も、自分から名前を言うつもりはないみたい。
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