第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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「あ、あのっ」 大きく息を吸ってから、口を開いた。 後ろを歩いていた男の人は、少しだけ驚いたように目を見開く。 「あなたの、名前っ」 ヴォンッ! 私が口を開いた、その時。 背の高い男の人が私達の前に立ちふさがり、突然魔法を発動させた。 詠唱は聞こえなかった。 私達の頭の上に現れた金色の魔法の帯は、天蓋のようにふわりと広がって辺りを包み込む。 それと同時に、霧の向こうから現れた何かが光に当たって弾かれた。 弾かれた何かは、さくさくと軽い音をたてて辺りの地面に突き刺さる。 細長い、羽根のついた黒色のそれは、間違いなく矢だ。 「リュード、後方からも敵だ。そちらは貴様にくれてやる」 男の人は、次の魔法を唱える準備をしながら、前を行くリュードお兄ちゃんにそう呼び掛けた。 「ふぇっ、待ってくださいよ!そーいうのはちょっと……」 わたわたしながら背負っていたバッグを下ろすと、リュードお兄ちゃんは、透明な瓶のついた不思議な形の銃を取り出して、カチャカチャといじりはじめた。 さっきの音の正体は、この不思議な武器についた瓶だったんだ。 「へへー、見てください。僕特製の薬草銃です。何を隠そうこの間のサイラス砲からヒントを得てですねぇ、弾の代わりに特殊効果のある薬草水が出るんですよ! しかもそれだけじゃなくて、この辺りのパーツを見てください。ここから……」 リュードお兄ちゃんが得意気になって話をする間にも、霧の奥からは弓矢が放たれ続けていた。深い霧なのに、どうやって位置を調べているんだろう…… それよりも、たくさんの弓矢の攻撃を受けてもびくともしない魔法の帯に、私は驚いていた。 そして、降り注ぐような沢山の矢の攻撃を受けているのに、平然と銃の説明をしているリュードお兄ちゃんも。 「そうだ!」 ミラの手を振りほどき、私は持っていたカンテラの火を吹き消した。
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