第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

40/45
前へ
/284ページ
次へ
「そうか、今日は双新月だったんだね」 いつもと違って、なんだか暗いと思っていた。 朝が訪れない常夜のケッカイは、星や月は普通通りに昇って沈む。 今日は2つある月のどちらもが新月の状態、つまり双新月というわけ。 だから、いつもなら眩しいくらいに輝く月が無くて、本当に真っ暗。 「月が出てたら虹がかかったかもしれないのに…」 がっかりして、つい口に出てしまう。 これもヒューゴおじさんのうけうりだった。 月がでていないと、空に虹はかからない。 「……わぁ、なに、これ?」 切り立った崖から見下ろすと、暗い水の流れが渦を巻いていた。 ずっと地面しか無いと思っていたけど、こんなに大きな水溜まりがあったなんて。 男の人は、いつの間にか私の横に並んで立っていた。 「川?それとも湖……」 「海だ」 男の人が、短く言った。 「うみ……」 同じように繰り返す。 川と同じで魚がいて、飲んだらしょっぱいらしい、うみ。 お話で知っているうみは、もっとキラキラしているのに、こうして見下ろすうみは黒くて……ずっと見つめていたら、うみの底にいる誰かに引きずり込まれてしまいそう。
/284ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加