第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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「…………行こう」 「え…っ…?」 男の人は地面に膝をつくと、後ろに組んでいた私の手を取った。 緊張して動かなくなってしまった私の冷たい指は、大きな掌に包み込まれて、急に熱くなる。 ちょっと骨ばっていて、平たくて、白くて、温かな手。 「この森はもう安全ではない。俺が、誰の目にも触れない場所へ連れて行ってやる。 そこで俺と……共に暮らそう、チェルシー」 真っ直ぐに見つめる瞳が、私の心の中に何かを満たしていく。 それはちょっとした衝撃で、どっと溢れ出してしまいそうで。 「……頼む」 最後は泣き出しそうな声で、男の人は静かに囁いた。 「森の外に……出るの?」 考えもしなかった事。 …………ううん、 考えちゃいけないって、ずっと隠していた事。 ワガママを言えば、ヒューゴおじさんに迷惑をかけてしまうから。 言えばおじさんがガッカリしてしまうって知っていたから、ずっと言えなかった。
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