第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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「ッ!」 震える膝を叱りつけて崖の縁に立った私は、打ち寄せる波間に浮かぶ彼の姿を見つける。 目を凝らすと、浮かんでいる体から、銀色に光る棒のようなものが見えた。 …………矢、だ。 闇の中、辛うじて見えていたその姿は、やがて、深い海の底へと溶けて消えた。 「いた!」 背後から声がして、2つの足音が近付いてきた。 「探しましたよ!……危ないなぁ、崖から落ちたらどうするんですか」 リュードお兄ちゃんが、私の肩を掴んで引き寄せた。 靴が地面を踏みしめると、そこから崩れた土が、パラパラと闇の向こうへ落ちていく。 「……おちた……の」 「なんだって……?」 「ここから……あの人……」 「まさか!」 落ちたことを伝えようとして振り返ると、険しい顔をするリュードお兄ちゃんの横から、ミラが顔を覗かせた。 「本当?……誰に攻撃されたの?!」 「…………ぇ、」 「ここは危険だわ、さっきの敵がまだいるのかもしれない。向こうに隠れられそうな場所を見つけたの、行きましょう!」 言うなり、ミラは私の手を掴んだ。 「待って、あの人は……」 「チェルシー、あの人はきっと無事よ…………ね、“行くわよね”?」 「…………うん」 ミラは、掴んでいた手を緩めることなく、安心したように笑みを浮かべた。 「あの人なら大丈夫ですよ、殺しても死なないですし」 リュードお兄ちゃんは、崖下に落ちたんじゃなくて“降りた”のかも、と説明した。 とにかく、こんなことじゃ死なない人なんだって。
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