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「…………ッう……」
自身の声に起こされ、薄く目を開ける。
衣類が肌にまとわりつき、ベタついて、甚だしい不快感だけが心を支配していた。
つい先程、何者かに攻撃を受けたはずの脇腹に手をやり、そこに開いた穴に指を突っ込むが、腹は相変わらず薄っぺらで、冷たく。
血の出ている様子が全くないその腹を擦りながら、動くようになった瞼をあげると、視界の先には、えらく明確に可視できる石榑(いしくれ)だらけの岸辺があった。
まさか、日が出るまで気を失っていたのか。
そう錯覚したのもほんの一瞬。
顔をあげると、岸辺のやや奥まった所に、空気を舐める薪の炎が見えた。
勿論、俺が灯した炎ではない。
上半身が起こせるか試してみると、思っていたよりも遥かに容易く腕が曲がり、視線はぐっと高くなる。
「よぉ、随分遅いお目覚めだな」
間の抜けた声に、俺は視線をずらした。
焦る事態ではない。
なにせ、その声の主は俺の方が捜していた相手なのだから。
そして、その声の主がここにいると分かった瞬間、何故俺の腹が微塵も痛まないのか、その理由に辿り着く。
「……クリムソン」
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