第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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「大丈夫……だよね……」 窓から何度も外を見て、誰も来ないことを確かめた。 もちろん誰かがのっそりと顔を覗かせることもなく、霧は静かに流れている。 深呼吸して、心を落ち着けて。 家の横にある物干し場の位置と、干してある着替えの場所を頭に描く。 扉を出て一気に走れば、物干し場までは1分もかからない。 着替えと、下着。 それだけ掴んで戻ってくればあっという間だ。 「…………よし、」 最後にひとつ息を吐いて、私はドアのノブを回した。 音も立てずに細く扉が開き、暖房の効いた部屋の中に、すっと冷たい霧が流れ込んでくる。 扉の隙間に身体を滑らせ、1歩外に踏み出した。 じっとりとした冷たい空気がまとわりついて、私は身震いする。 思った以上に霧が深い。 走ればすぐだと思っていたけれど、こうしていざ外に出てみると、足がすくんで、走るどころか、早歩きをすることさえ出来ない。
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