第14章【残虐なる正義・静謐なる旋律】

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あと少し、テラスを通り過ぎれば、その先は玄関の扉だ。 「…………ぁ、」 すぐ目の前が扉、というところで私は立ち止まった。 「おじさんの……」 抱えた服を何度も見つめ直し、腕の中にあるのが私の服だけだということに気がつく。 洗濯したのは私の服だけじゃない。おじさんの服も一緒だ。 「どうしよ……」 今からまた、物干し場まで戻らないといけない。 おじさんが帰ってきてから洗濯物を取りこんでもらうのが一番いいんだけれど、おじさんが何時に帰るのかが分からない。 さっき歩いて来たばかりなのに、霧に包まれた物干し場は誰かが隠れているようで。 「大丈夫……誰もいない」 自分に言い聞かせると、私は、ゆっくりと足の向きを変えた。 私の動きを受けた重苦しい霧が、気だるそうにその場からつつと流れる。 さっきと同じ道を踏みしめながら、私はさっきよりも慎重に進んだ。 幸い、物干し場とその洗濯物達は、さっきと全く同じように、わずかに吹く風に揺られている所だった。
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