油小路地獄絵

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油小路地獄絵

 屍の山を見て、伊ケ崎早苗は震えた。 「ここは日本なのか?」  堀川通りは事件を知らない人もいるのか、普通に歩いている人もいる。しかし、道を1本隔てた油小路は地獄だ。 「誰がこんな……」  生首が転がり、血の海に御守りが沈んでいる。  まだ若そうな男性だ。腹がパックリ割れて、臓物が飛び出ていた。  壁に凭れている老婆は、頸動脈を切られていた。血が滝みたくダクダクとアスファルトを流れている。  体に力が……気づくとジーパンが濡れていた。  もっ、漏らした?お漏らしなんて小学1年の遠足以来だ。こっ、これは夢だ。  ゾワゾワと何かが蠢いている。イモリだ。イモリが血の川を這っている。 「伊ケ崎!」   その声に体がビクリと反応する。  スラリとした男が颯爽と現れた。手にはグロック17拳銃を持っている。 「日向さん!」  伊ケ崎早苗は泣き叫んだ。日向隼人、京都府警の敏腕刑事だ。早苗に捜査のイロハを教えてくれた男である。 「どうして、君がここに?」 「職場が近くなんですよ」  2年前に刑事を辞めて、結婚をした。  旦那は商社マンだ。《踊る大捜査線》に憧れて刑事になったが、現実は厳しかった。  陸上でインターハイに出場するほど足がくさかった。違った。足が速かった。 「災難だったな?」  日向が現場検証を開始する。
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