怪物の血筋

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怪物の血筋

 大宮駅のコンコースを疾走していた。肉の焦げた臭いが鼻につく。  NEWDAYSの前にいた警官が、腰のホルスターに手を伸ばした。 「パイロキネシス!」  ボッ!火の玉が現れ、警官が火達磨になった。さっき死んだ警官より若そうだ。旨そうだな。  刀でぶった斬る感触の方が俺は好きだが、パイロキネシスの方がリスクは少ないな。  殺戮人数が10人になった!おめでとう!  チロリロリーン!純のlevelが3になった! 《妖怪変化》を覚えた! 『頭の中に変身する相手を思い浮かべて、イクイクイク!と叫ぶのじゃ』と、芹沢鴨の声が聞こえた。  芹沢は新撰組の前身である、壬生浪士組の筆頭局長だ。本庄宿(現在の埼玉県本庄市)の篝火事件や、大和屋の焼き討ちなど芹沢の乱暴狼藉により、壬生浪士組の存在は危ぶまれた。  近藤勇たちにより粛清され、芹沢は地獄に堕ちた。俺は芹沢鴨の化身だ。  俺は男子トイレに駆け込み、個室に入った。外はガヤガヤと蜂の巣をつつく状態になっている。  頭の中に嵐の二宮を思い浮かべた。沖田総司は彼が演じるといいかも知れない。 「イクイクイク」と、呪文を唱えたが何も怒らなかった。 「どうなってんだよ?故障か?」 『もっと大きな声で叫べ』 「おい、いたか!?」「いや、まだだ」  トイレの前に刑事がやってきたようだ。 「おい、ドアが閉まってるぞ?」  蹴破られたら、そこでgameoverだ。 「イクイクイク!」 『変身を完了した』  芹沢の声が聞こえた。  スマホを鏡モードにした。  二宮が映っている。俺は度肝を抜かれた。 「昼間っからトイレで何をしとる!?出てこい!」  ガチャリ、鍵を外して外に出た。  禿げ頭のオッサン刑事がキョトンとしている。  安そうなスーツを着ている。 「あれ?二宮君じゃないか?《ブリーダー犬を飼う》見てたよ。サイン頂戴よ?」 「それを言うならフリーター家を買う、でしょ?」 「あぁ、それそれ。娘が君の大ファンなんだ」 「ちょっと急いでいるんで……」  何とか危機を脱した俺は、腹が減ったからNEWDAYSでサンドイッチ《たまご》とwondeの赤を買った。ベンチで食べていたら、頬に傷のある男が近づいてきた。「近藤勇は見つかったか?芹沢君よ」
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