逆さまの部屋

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逆さまの部屋

 友人が一人暮らしを始めて半年。互いの都合がようやく合い、家へ遊びに行くことになった。 「わー。いい部屋だね」  聞いていた以上に新しく綺麗な部屋は、女の子の一人暮らしには充分以上の間取りなのに、女の子の一人暮らしでもお得な家賃ということだった。  当たり物件だねと、彼女は嬉しそうに笑ったが、若干いつもと笑い方が違う印象があった。でもすぐに私の知る様子に戻ったので、それ以上は気に留めず、色々と近況を語り合った。  かなり長いこと夢中になって喋っていたらしく、ふと時計を見たら、もう夕方の七時を回っていた。  日が長い時期だし、そもそもいい大人同士だから、遅い時間という訳ではないけれど、それぞれ明日は仕事かあるから、そろそろお暇を、という時になって、雨音がしていることに気がついた。  来た時は晴れていたし、確か天気予報でも、今日は一日快晴と言っていた気がする。  でも確かに雨の音が聞こえる。 「ねえ、雨降ってきてるみたいだから、傘借りていっていい?」  そう問うと、友人の顔に困惑が浮かんだ。一瞬、傘を貸したくないのだろうかと思ったけれど、表情の意味は違うものだった。  彼女が窓際に近づく。カーテンではなく、来た時からずっと閉じられていたブラインドを開く。  そこから見えたのは、宵闇が張り出す中、遠く残照の残るよく晴れた空だった。  目に映っているのは晴れた空。でも耳には雨音が響いている。 「やっばり…聞こえる?」  どうやら幻聴でも、何か別の音を聞き間違えてる訳ではないらしい。  うなずくと、友人ははぁと溜め息を吐いた。その後に、 「他の部屋は何ともないんだけど、この部屋だけ、どうしてか、晴れてる時には雨音が聞こえるのよね。でも逆に、雨が降ってる時は、それがどんなに豪雨でも、全く音が聞こえないの。…家賃も含めて条件いいからここにいるけど、これってやっぱり、引っ越し考える物件だと思う?」  相変わらずの困り顔で、どうしようと聞いてくる。そんな彼女に、私は、『そりゃ当然でしょ』とだけ返した。  …ちなみにこの日以降、実際の天気と外から聞こえる音が違うという現象は他の部屋にも広がり、酷い時には、窓の外に雨が降っている光景が見えているのに、外に出ると晴れている、ということもあるとか。  今、彼女、大急ぎで引っ越しの準備を進めている。 逆さまの部屋…完
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