第23章

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 岡本靖子は歩いているアスファルトがまるでスポンジにでもなったような気がしていた。 一歩ごとに足が沈み込む。それは今見てきたばかりのモノのせいだ。 警察では気丈に振るまったが今頃になってショックが襲ってきているらしい。 (どうしよう……どうすればいいの)  いなくなった夫らしい人物の確認をしてほしいと警察から電話があった。だが見せてもらえたのは写真だけで、それには人間の形をしたものは写っていなかった。 足や耳を見せられたって夫だとわかるはずがない。 僅かに残った手首によく知っている痣があって、それだけが「夫」であるらしい、と思っただけだ。  不思議なことに夫が死んだということに対しては、驚きはしたが悲しみはなかった。その『死に方』を見て背筋が凍ったのも、夫に対しての思いからではない。  息子の千朗の仕業だとすぐにわかったからだ。 そしてそれに気づいたことを警察に気づかれてはならないと思ったから。  刑事にいろいろ聞かれたが、靖子は息子の力のことを一言も言わなかった。 (千朗………)  息子は実の父親を殺したのだ。  あの恐ろしい力で潰してしまったのだ。  教師も学校も……。  千朗は優しい子供だった。なのにどうしてあんなに恐ろしい力を持ってしまったのか。どうしてこんな残酷なことをするのだろうか。  わからない。自分の子供がわからない。  あの子はあたしも潰すのだろうか。空き缶のように、ゴミ箱のように、夫のように。
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