第26章

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 その薄い表皮に約一四〇億の神経細胞と約千億の補助細胞が詰めこまれ、活発に連絡しているのだという。この小さな頭の中で……。  想像もつかない。  絶え間ないパルスと電気信号がシナプスの間を走り、生物を生物たらしめているのなら、この過剰なほどのエネルギーは何なのだ?  同じ活動をしているのにどうして一方にはこれはどの力を発動させる人間がいるのだろうか。  クレーン車が瓦礫を掴み上げ空の中を運んでゆく。風景だけならのんきな場面のようにも見える。 救いようのない悲しみと絶望がこの破壊を生んだのだとしても。  二人はその後、岡本靖子が入院している病院へ向かった。  目の前で息子が潰れてゆくのを目撃していた靖子は、軽いショック状態になり、興奮と虚脱を交互に繰り返して精神科に入院した。 だが、三日ほどで症状は落ち着き、じきに退院できるという。  病室に行くと彼女の姿はなかった。 「岡本さんならプレイルームですよ」  看護婦に教えられて覗いてみたのは、精神の発育に問題のある子供たちがボランティアの人々と遊ぶ部屋だ。岡本靖子はそこで子供たちに絵本を読んでやっていた。 「あ………」  夏月と景斗の姿を認めて、靖子は頭を下げた。
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