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そのまま台所に居座り、新たに出して貰ったお茶を飲んでいた亮輔から目配せされた眞紀子は、それ以上は詮索せず大人しく引き下がった。すると何かの電子音のメロディーがその場に小さく響き、隆也がぼそりと呟く。
「うん? メール?」
どうやら隆也のスマホにメールが着信したらしく、食べるのを中断した彼が内容を確認した。そんな兄に向かって、眞紀子が些か皮肉気に声をかける。
「それで? 貴子さん、そんなに怒ってるわけ? せっかく同棲を始めたばかりだって言うのに、兄さんったら早々と出戻りなわけか」
すると隆也は、何でも無い様子でスマホを元通りスラックスのポケットにしまいながら、短く告げた。
「いや、昼前に帰る」
「あら、随分早いのね。今日一日位は居座るかと思ったのに」
「貴子から『昼食は私が作るから、あまり遅くならない様に帰って来なさい』というメールが来た」
そんな事を淡々と口にして、残り少ない朝食を再び口に運び始めた隆也を見た面々は、全員笑いを堪える表情になった。
「ほう? 彼女はなかなか寛大だな。恐らく台所も酷い惨状だったと思うが」
「やっぱり隆也にも、少し料理を教えておくべきだったわね。これからも料理が原因で、愛想を尽かされないかしら?」
「なーんだ、心配して損した。結構ラブラブなんじゃない。私のご飯を奪ってないで、リア充はとっとと帰ってよ」
からかい混じりに片手を振って、追い払う素振りを見せた眞紀子に、小さく肩を竦めた隆也が言い返す。
「心配じゃなくて、面白がっていただけだろうが。それに食べたらすぐ帰るから、安心しろ」
それを聞いた眞紀子は、思わずうんざりした表情になって悪態を吐いた。
「うっわ、即行で帰るとか? もう、嫌味以外の何物でも無いわ。二度と帰って来ないでよね」
そんな兄妹のやり取りを、亮輔と香苗は揃って椅子に座ってお茶を飲みながら微笑ましく見守っていた。
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