第13章 榊家での一幕

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「ひょっとしたら……、俺の方が早く起きるのは初めてか?」  翌朝、珍しく貴子より早くベッドから抜け出た隆也は、眠気覚ましに珈琲でも飲もうかと、パジャマ姿のままキッチンに入った。そしてお湯を沸かそうとしたところで、一人考え込む。 「偶には作ってみるか? あいつがボケたら、俺が作って食わせてやらないといけないからな」  軽く笑いながらそんな事を呟いた隆也は早速行動を開始し、後々隆也自身とその周囲の人間が“魔が差した”としか評さない、惨劇の幕が切って落とされた。  それから小一時間後。軽く目を擦りながら、貴子がパジャマのままリビングにやって来た。 「おはよう。なんでそっちの方が、早く起きてるのよ……」 「そんな寝ぼけ顔で、何を言ってる」 「ところで、何か焦げている様な、変な臭いがしない?」 「一応換気扇はしばらく止めないでおいたが、まだ少し匂うか?」  ソファーに座って平然と珈琲を飲んでいた隆也に怪訝な顔をしてから、何となく嫌な予感を覚えた貴子が無言でキッチンに足を踏み入れた。そして目の前の光景に、思わず立ち竦む。 「…………何、これ?」 「朝食を作ってみた」  その背後から、飲み終えたらしいカップを手にやって来た隆也が淡々と答えると、貴子は勢い良く彼に向き直って、憤怒の形相で掴みかかった。 「朝食……って、あっ、あんたねぇぇぇっ!!」  そこで完全に眠気が吹っ飛んだ貴子から、隆也は盛大な罵倒の言葉を浴びせられた。 「おはよう、お母さん、朝ご飯ヨロシク~、って……。なんで昨夜居なかった兄さんが、ここで朝ご飯を食べているのよ?」  珍しく実家に帰って来た翌朝、パジャマ姿で大あくびしながら広々とした台所に現れた眞紀子は、ちゃっかりテーブルに着いて朝食を食べている兄の姿に、軽く目を見張った。しかし彼女の疑問に兄も母も直接答えず、淡々と言葉を返す。 「眞紀子、もう九時だぞ? 休みだからと言って、だらけ過ぎだ」 「おはよう、眞紀子。急に来た隆也にご飯を出したから、あなたの分は冷凍ご飯よ。おかずも少なくなったけど、我慢してね?」 「えぇぇぇっ!? あたしだって炊き立てご飯食べたい! それにどうして急に帰ってくるのよ、兄さん! 料理上手な彼女はどうしたのよ?」
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