201人が本棚に入れています
本棚に追加
憤慨して八つ当たりしてきた妹に、隆也が不愉快そうに言い返そうとしたが、その時お茶のおかわりを求めてやって来たらしい亮輔が、湯飲み片手に口を挟んできた。
「それがどうやら隆也の奴、彼女のマンションから叩き出されたらしいな」
「はぁ? 何で!? 婚約したばかりって聞いてたのに、浮気してバレたとか? 間抜け過ぎるわ」
「阿呆。俺がそんなヘマをするか」
「バレなきゃするわけ?」
「そもそも浮気なんかするか、馬鹿者」
兄妹でそんな応酬をしていると、親達も興味津々に話に加わってくる。
「そう言えば、どうして朝っぱらから叩き出される羽目になったのか、きちんと聞いていなかったな」
「そうね。さっきは急に帰って来て驚いたし、ご飯の用意でバタバタして聞いてなかったから。理由を教えてくれる?」
にこやかにそんな事を言われて、もとより変にごまかす気は無かった隆也は、平然と事情を説明し始めた。
「今朝は珍しく俺の方が早く目が覚めたから、偶には俺が朝食を準備しようかと思ったんだ」
隆也がそう口にした途端、家族全員が驚く。
「どういう風の吹き回しだ?」
「まあ! 貴子さんって偉大ね。家では全然そんな事をした事無かったのに」
「雨じゃなくて、槍が降りそうだわ。だけど兄さん、本当に料理なんかした事無かったじゃない。作り方知ってるの?」
「一応中高の時に、調理実習をした事はある」
憮然とした顔で反論した隆也だったが、それを聞いた眞紀子は半眼になって、呆れたように感想を述べた。
「その程度で、いきなり調理師免許保持者の彼女に料理を作って食べさせようなんて、本当に兄さんってチャレンジャーと言えば聞こえは良いけど、身の程知らずと言うか、単なる馬鹿と言うか、俺様もここに極まれりと言うか」
「五月蠅いぞ」
そこで妹を睨み付けた隆也を宥める様に、亮輔が声をかけた。
「それで、彼女に不味い物を出して怒られたのか?」
「いや、食べる前にあいつが怒り出した」
「どうして?」
「あいつが一目見るなり『食材に対する冒涜だわ! 何考えてるのよこの罰当たり、出てけ────っ!!』と激怒した」
それを聞いた亮輔と香苗は無言で顔を見合わせ、眞紀子が不思議そうに尋ねる。
「そんなに怒らせるなんて、一体、どんな代物を作ったのよ?」
「現物は無いが、久しぶりに料理なんかしたから、記念に撮ってみた。……これだ」
最初のコメントを投稿しよう!