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そう言いながら手早くスマホを操作し、該当するデータをディスプレイに映し出した隆也は、それを眞紀子に手渡した。眞紀子がそれに視線を落とし、その両側から亮輔達が覗き込むと、少しの間台所が静寂に包まれる。
「…………兄さん」
「何だ?」
思わず眞紀子が漏らした声に隆也が反応したが、それをきっかけに眞紀子達の口から、遠慮の無い感想が流れ出た。
「うん、無い。これは無いわ~。確かにこれは、食材に対する冒涜行為以外の何物でもないわね~」
「良かった、眞紀子の感性が一般的で。これで『貴子さん、厳し過ぎるんじゃない?』なんて言おうものなら、あなたを一から再教育する必要があるところだったわ」
「隆也……、お前調理実習の時、どんな物を作ったんだ? 周囲の人に迷惑をかけなかっただろうな?」
「随分な言われようだな。確かにあまり美味くは無かったが、何とか食べられない事も無かったが」
「体に悪いから、食べちゃ駄目よ?」
心外そうに言い返した隆也だったが、香苗が心底呆れた口調で窘めた。そして隆也の料理に関する話題はそこで終わりになり、香苗に出して貰った朝食に手を伸ばしながら、眞紀子が向かい側の隆也に問いかける。
「そう言えば、兄さん。今年の年末年始はどうするの? できればこっちに顔を出した時に貴子さんに直に会ってみたいけど、婚約したばかりみたいだし、二人で旅行とか出かけるかしら?」
何気なく予定を聞いてみた眞紀子だったが、隆也の答えは予想外だった。
「旅行とかには行かない。ここに戻る」
「何で? せっかく纏まった休みなのに、彼女と一緒に過ごせば良いじゃない。どうせ異動したばかりで、普段バタバタしてるんだろうし。確かに貴子さんの顔は見たいけど、いきなり年末年始をずっとここで過ごさせたら、気を遣わせて気の毒だと思うけど」
「貴子は来ない。あいつが家族から旅行に誘われたからな。邪魔をするのは野暮だろう」
そこまで聞いて、眞紀子は本気で驚いた。
「何それ? 婚約者放置で家族旅行? 実は兄さん、どうでも良い扱いなの?」
「五月蠅い。あいつはこれまで、家族旅行なんてした事無かったからな」
「……貴子さんって、どういう家庭の人なの?」
思わず眉根を寄せた眞紀子を、隆也が軽く睨む。
「色々事情があるんだ。余計な口を挟むな」
「はぁい、分かりました」
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