第1章

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 汗で湿ったセーラー服が背中にぺっとりとつく。いくら風が吹こうと、人の吐息を間近で受けているような、まとわりつく湿気を含んだ風ならば意味はない。セーラー服が乾くどころか、拭いきれない暑さに不快感が増していく。額に浮かんだ汗が頬を伝い、橋の欄干に滴り落ちた。  目下に広がる川。昨日の台風で水かさが増し、勢いのついた川は倒れた大木をも押し流していく。大木に捕まって一緒に流されていけば、私を海へと連れ出してくれるだろうか。  私の胸の高さほどある欄干によじ登り、先程より高所からもう一度川を眺める。  このまま体を傾ければ、私が人魚でない限り間違いなく溺死するだろう。いっそ人魚であれば人間に恋をして、泡となって水に溶けていけるのに。そうしたら苦しまずに死んでいける。溺死は一番苦しいのだと、どこかの本で読んだ。  世を儚んだ訳じゃない。なんとなく、きっと遥か遠くにあるであろうゴールテープを自分で用意してみただけだった。
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