第2章

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「栗色の葬式で、泣いてる小湊を見たとき。後頭部を思い切り殴られたようだった」  お通夜にも、お葬式にも出たことは覚えている。けれど、木の箱に栗色が入っていると親に伝えられても、友人が死んだと信じることはできなかった。栗色はあんなに腫れぼったい顔をしてないと、頑なに見るのを拒んだ。嘘だ、嘘だと泣きわめいた記憶が蘇る。 「栗色の死を全否定してたもんね、私」  ──この死体は栗色じゃない。お兄ちゃんならわかってくれる。だって栗色と一番長く過ごしたんだから。  私の心は未熟すぎて、栗色の死を受け入れることができなかった。 「全否定にはさすがに驚いたけど。小湊にすがり付かれて、やっと。俺が今まで小湊を見ていなかった事実に気づいた。赤の他人だと思い込んでいたことに、気づいてしまった。栗色が居なくなった世界は俺と小湊が残って、あるのは血の繋がりだけ」  兄とは遊び仲間以上の接触はなかった。栗色が一緒のときのみという条件付きの遊び仲間。 「俺は兄らしいことを一切してこなかった。葬式のとき、初めて小湊にすがり付かれたんだ。それまでは誰が小湊を受け止めていた? 栗色以外にいない。栗色が代わってくれていたんだ。俺が目をそらしていたこと、全て」  栗色の死を認められない私は兄にすがり付いた。兄も私と同じ気持ちを抱いているはずだと。栗色と過ごした時間の長い兄なら殊更大きく抱いているはずだと。 「俺はそのときにやっと、栗色が請け負っていた役目のひとつに気がつけたんだ。もちろん、そんなものは俺の勝手な解釈だと判ってる」  でも兄は受け入れていて、役目を終えたんだよ、とだけ言った。ショックだった。役目の意味がわからなかった。  役目を終えたらお別れしないといけないのなら、役目なんてなくていい。栗色の考えが理解できない。それに賛同する兄も。  それから、私はヒーローとして兄を切り離すことにしたんだ。憧れる対象として距離を置くことで栗色との思い出からも離れようとした。
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