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「そうだったんだ。わからなかったよ、私」
思い出した憧れのスタートは、憧れとはほど遠かった。私は栗色も兄も見ていやしなかった。受け止められない事実を手の届かない場所にわざわざ置いて、目をそらしていたんだ。四年前から、ずっと。けれど、抱いてきた思いはいつのまにか昇華されて、純粋なものになっている。それはどうしてだったっけ。
「だから、小湊が俺を兄として見ていてくれたことが嬉しいよ。俺は兄になれたんだな」
どうして純粋に憧れられるようになったのか。それは、兄が私を妹として見てくれるようになったことを、無意識に感じ取っていたからなのかもしれない。
「私はずっと、お兄ちゃんに嫌われているんだと思ってた」
「どうして?」
「一人暮らしを始めたから」
兄が進んだ高校は、家からでも十分に通える距離にあった。
「私が家に居るせいかなって思ってた」
私と兄の接点は栗色が居てこそのものだった。私が兄を見て栗色を思い出すように、兄もまた私を見て栗色を思い出してしまうのではないか。兄が一人暮らしを始めたのは、私が兄の負担になっていたからなのだと思っていた。
実際、兄が一人暮らしを始める前、私は兄に当たったことがある。でも兄は怒らず、ただ静かに私を宥めるだけだった。
怒鳴り返してくれればよかったのに。私が栗色や兄と違うということを肯定されているように思えて嫌だった。
「お前、ずいぶんひねくれてるな」
頭上からため息が落ちてきた。顔を上げると兄は肩を竦めて、苦笑を浮かべている。
「確かに、原因は小湊だったけど、嫌ったから出ていった訳じゃない」
「どういうこと?」
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