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「距離を、置きたくて。……小湊を見ると、確かに栗色を思い出す。恋しくなって、過去に戻りたい衝動にかられる」
兄は栗色の死を悔やんでいると言った。いくら役目を全うしたからといって、死を肯定するのは難しい。兄も受け止めきれない部分があったのだ。
「そんな、栗色にすがる自分と距離を置きたかったんだ」
兄の声は震えていた。でも、目線を逸らすことなく、まっすぐに私を見てくれている。それがとてもむず痒く感じた。真っ正面から受け止めるのは気恥ずかしい。
「栗色が救いたかった世界と俺の役目を、俺が傷つけるわけにはいかないから」
私は。
兄のことも、栗色のことも考えずに二人をヒーローに仕立てあげてしまった。相手の気持ちも考えずにただ、凄いと持ち上げて。自分とは違うと境界線を引いて。必要以上に深いところまで入ってこないように、彼らを否定していた。
兄も、栗色が居なくなって悲しくないわけがなかったのに。
どんな役目だって、死んでしまうことに納得できるはずがないのに。兄は兄で居てくれようとした。
「一旦、気持ちの整理をしたかった」
涙が、堰止められない。視界が歪む。ぼやけて何も見えなくなる。
「ごめっ、ごめん、なさい。私ばっか。私は、お兄ちゃんに何もしてあげられないのに。妹なんて」
私は泣いてばかりだ。泣くこと出来ない。なんて狡いやつなんだろう。
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