1. 時間の止まった喫茶店

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「それにしても、いい加減そろそろ苦情がでないか?看板メニューのコーヒーゼリーは注文できないなんて。」 中学の頃からの友人、領は今夜も私の店に寄ってくれる。 「苦情よりも、珍しさで評判になるっていうのもなぁ。ありかもしれないけどさ。それと、どれだけ口説いてもなびかなすぎる美人マスターの店、とかでさ。」 こんな日にわざとだろう、軽口をたたくのも領らしい。 「仕方ないでしょ。コーヒーゼリーの気分になれないんだから。」 「そうか、今年でどれだけ?あれから2年後か?」 「2年、は経ってる。」 そう、毎週水曜日に必ず来てくれたあの人が来なくなってから。 カウンターの右すみに置いた日めくりカレンダーは、2年前の4月28日のままだ。 ちいさな花が日ごとに描かれたもので、その日の柄は藤の花だった。 「婚約者が消えて2年、ならともかくフツーの客が来なくなっただけだろ。」 領は4月の末にしては気温が高かったからか、アイスコーヒーのグラスにさしたストローをぐるぐる回しながら言う。 「それでもさ、そいつがどうしても大事なら関係の深さとかに関係なくさ、覚えててもいいと思うよ。紀香には紀香の時計があるから、世間の時間なんて気にしなくていいよ。」 領の優しさはちょうどいい。 乱暴に「元気を出せ。」と、こちらがぼやけた作り笑顔をみせるまで連呼することはない。 相手の「元気になってほしい。」という思いに応えたくても、すぐにできないことだってある。 急に消えたしまった人のことを、 「考えたって出てこないんだから、考えるだけ無駄。」とか 「もともと縁がなかったんだよ。他に恋人とか、下手したら奥さんいたかもしれないんだし、次の人を探した方がいいよ。」 なんて言う人だっているだろう。 その言葉を聞いたら相手がどう感じるか、相手の心を救えるか、なんて考えもせずに思ったことをそのまま言う人がたくさんいる。 思ったこと、たとえ、それが真実だったとしても。 真実がだれも幸せにしないのなら、それは本当であっても、 間違いだと思う。 欲しいのは、真っ暗な自分の中に、もうこれ以上誰からも何物からも消されることのない自分自身の光だ。 光が今はなくても、見つける方法だ。
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