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「あるんだよ。それも本当にひっそりと片隅に。あれだ、百葉箱のさらに向こう側だ」
亜塔はあっちだと箸でその方向を指し示す。その勢いが凄まじく、危うく目の前にいた迅の目を突くところだった。
「うおっ。あっちですね」
迅は箸を避けたついでにそちらを向いた。しかし当然ながらここから見えるわけがない。目に入ったのは標本が入った棚である。その棚にはおそらく亜塔の愛するものも入ってるはずだった。
「うわっ」
それを思い出してしまった迅は顔を青ざめて目を逸らす。
「それは謎ですね。しかも学園七不思議として相応しいです。ついでに幽霊が出るとかいう噂があると助かるんですが」
有力情報ゲットに安心した楓翔は、どうにか怪談にならないかと亜塔を窺う。やはり関わりたくないが頼りになる先輩だ。部長だったのは取りあえず正解かもしれない。
「それはない。そもそもそんな噂があれば井戸の存在はもっと有名だよ。俺も真っ先にその原因を突き止めに行っている。ところが、誰に言ってもそんなものはないと言われてしまう始末だ。幽霊話が欲しいなら適当にでっち上げたまえ。そんなものは勘違いと思い込みから派生するものだからな」
大笑いする亜塔に、楓翔は脱力した。それを言っては元も子もない。
「そうですよね。それに七不思議って、よく考えれば七つ不思議があればいいんですし。解明するのは何も怪異現象じゃなくていい」
思い切り亜塔に乗っかる迅は納得している。ここでも怪談が捨てられそうになっていた。
「よく言った。科学を信奉するものが非科学的なものを信じてはならん」
「いや。だからその非科学的なものを科学で解決したいんです」
亜塔と迅が手を取り合う中、ちゃんと趣旨を理解している楓翔は叫んでいた。本当にもう亜塔と関わりたくないと再確認する羽目になったのだった。
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