第1章

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 千晴は他のメンバーとは違う手に出ていた。それは文系クラスの友人に話を聴くというものである。理系に怪談を持ち掛けても無駄だと真っ先に気づいたのだ。 「ヤッホー。穂波」 目的の二年二組にやって来た千晴は廊下から声を掛けた。目的の友人の川島穂波の席は廊下側の窓際なのだ。 「ぐふっ」  本を読みながらパンを食べていた穂波は思い切り咽た。昼休みに声を掛けられることは稀なので油断していたのだ。  穂波は誰もが思い描く文学少女そのものである。さらさらの長い黒髪。大人しい雰囲気。そして物知りというところだ。 「どうしたの?千晴」  机に置いていたペットボトルのお茶を急いで口に含んでから穂波は訊く。丁度レーズンを飲み込もうとしていた時に声を掛けられたせいで、レーズンが気道に落ちていくところだった。 「ちょっと聞きたいことがあるの。いい?」  千晴は顔の前で両手を合わせて訊く。知恵を貸してくれとのアピールだ。 「私でいいの?まあ、座って」  穂波は目の前の席を指差した。この席の人物は昼休みに帰ってくることはない。いつも学食の大盛りランチを食べているせいだ。 「実は厄介なことを調べててね。理系の連中では手に負えないのよ」  千晴はさっさと教室に入って椅子に座ると切り出した。しっかり理系は関係ないと言ってしまうところが悲しい。 「へえ。一体何を調べてるの?」  どうやら理系の話を聴かなくていいようだと解った穂波は本を閉じて身を乗り出す。 「この学校にある怪談。でもこの学校って新しいじゃない。創立44年だっけ?おかげで見つからないのよ」  千晴は困り切った顔を作って言った。ちなみに創立何年かなど覚えていない。でっち上げだ。意外とこういう歴史の数字に弱いのが理系の悲しいところだ。
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