プロローグ

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僕は正直に言うと、そこまで今の生活を気に入ってるわけではなかった。 僕の家は山の麓にある小さな村にあった。 僕の実家はどこにでもある農家で、作物を育ててはそれを隣町に売りに行って、その金で生活必需品を揃える。 代々この暮らしを続けてきて、僕もその血統の一員になる予定だった。 別にこの生活が嫌いだったわけじゃない。むしろ気に入ってさえいる。 この完成された世界は僕には優しく、多くを望む気持ちもなかったので、仕事だけしてればあとは好き勝手できる。 畑を手入れして、家の手伝いをし、友達や家族と団欒して、その日を終える。 何を不満に思うことがあるのだろうか。完全だ、まさしく永遠回帰の完成された人間世界だった。 いま思い返しても、あの生活は僕にとっても、いや、全ての人間にとっても理想的なものだったと確信を持っていえる。 それほど僕はあの生活が気に入っていた。
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