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山深い地理のため春まだ早いこの時期、日も落ちると次第に冬の凍気が漂い始めているが、集まった人々の目には篝火の明かりで映し出された数少ない娯楽を髄まで楽しもうとシテやワキの舞、囃子方の奏でる鼓の一音までをも見聞き逃すまいと咳(しわぶき)の音すら立つことなく、舞台から遠く離れて警護にあたる足軽も明るく照らされる舞台をちらちらと覗き見ながら白い息を輝かせている。
暫し幻想的な時が流れ、床を踏み鳴らしたシテの足音が鳴り響いたとき、脇に控えていた男が目線を舞台に向けたまま氏照に声をかけた。
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