第1章 何度目かの挫折

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レプリカだろうな。社長室に入った僕は、さほど広くない部屋に場違いに飾られている少女の肖像画を見ながら思った。営業マンとしての勉強で美術館や図書館に行くが最近はのんびり絵画を見る気持ちも余裕もない。 今の会社は社員20名ほどの会社だが一番大きな会社で働いていた時は何百人もの社員がいた。そんな過去の栄光を思い出しながら、突然この部屋に案内された理由を考えていた。やはり、解雇されるのかと。 この仕事はまだ一年目だが営業の成績が悪いと容赦なく退職させられてしまうという噂だ。せっかく正社員の仕事が決まり喜んでいるのもつかの間、厳しいノルマに追われ、いつも自宅に帰るのは深夜になっていた。 そんなことを考えていると社長がやってきた。見るからにやり手の営業マン、現場からのたたき上げで社長にまでなった50代の男性だ。 「やあ、木原君。最近の仕事はどうかな?」 社長の言葉に、僕は調子が良いわけないだろうと思いながらも、「何とか勤まっています。」と控えめな口調で答えた。明るく話しかけられているからと言って油断してはいけない。 「時間がないから、用件だけ言わせてもらいたいのだが、どうも君には仕事への熱意が感じられない。ノルマに対しての執着もない。今のように何とか勤まっていますでは、ダメなんだよ。」 厳しい社長の言葉に少し心が折れた。 「社長のおっしゃるように確かに熱意にかけているところもあるかもしれませんが、営業がだめなら総務課とかに配置換えをしてもらえないのでしょうか?」  真剣に話しているつもりだったがやっぱり営業は厳しい。 しかし、事実上の退職勧告だ。ここで無理をして残っても同じようなことが続くだろう。一応返事を待った。
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