第1章 何度目かの挫折

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「いや、私は、配置換えをしても同じだと思うよ。」 あくまでも退職勧告ではないと言っているが、僕の心は完全に折れてしまった。 「分かりました。退職する形でお願いします。」 僕は失業保険の事を言おうとしたが必要なかった。 先ほどまでの厳しい態度はどこに行ってしまったというくらいその表情は穏やかになり、上機嫌になっていた。 「そうか。残念だが仕方がないことだ。一応会社としては君の失業保険の事も考えてあと二か月は籍を置いておこうと考えているよ。ちょうど一年間の在職になる。その間、温泉にでも入ってきたまえ。」 温泉に行く気にはなれない。しかし、ここで口論してしまえば再就職にも影響してくる。とりあえず、失業保険もでるのだ。円満な退職が一番なのだ。 社長室をでところで、一気に緊張の糸が切れそうになった。あの社長との話し合いが簡単に済むはずがなく、まるでフルマラソンを走り終わった後のように疲れが全身に襲ってきた。だがまだ今日やらなければならないことが終わっていない。とりあえず、直属の上司である課長に詳細を報告する事にした。 課長はすべてを知っていたようで報告などほとんどしなくてよかった。 きっと会議か朝礼で聞いていたのだろう。面倒見のいい人だ。 有給を消化することと再就職は焦らずにとアドバイスをくれた後、さびしくなるねと言ってくれた。そうか。退職するのだ。自分でも思う。もう何度目の転職になるのだろうと考えた。しかし、感傷に浸っている余裕はない。仕事の引継ぎや退職の手続きを総務課で行わなければならない。やめるのも大変なのだ。
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