華に狼、暁守る華

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 ポロリとこぼれた本音を、暁は無言で受け止めた。  しんと静まり返ったオフィスの中、僕と暁の視線だけが交錯する。  そういえば、いつ間にか課の人間は全員姿を消していた。  いつの間に帰ったんだろうか。  それともいつものように、どこかに潜んでこちらのやりとりを観察しているのだろうか。 「ハロッズの14番ブレンド」  そんなことを考えていたせいで、暁が何を言ったのかとっさに理解することができなかった。 「猫舌だから、入れたてはすぐに飲めない。  だけど渋いのは嫌だから、蒸らし時間は短めに。  お砂糖もミルクもなしのストレート。  その1杯があれば、華はいつだってご機嫌なの」  暁は独り言を呟くかのように囁くと、勢いよく席を立った。 「華が私を守ってくれるように、私だって華を守りたいの。  当然でしょ?  だから華に近寄る男は、昔からケチョンケチョンにしてきたの。  私のお目がねに適わない男なんて、そもそも華の前に立つ資格さえないもの」  暁は胸の前で腕を組むと、なぜか得意げな表情を浮かべて僕を見た。 「仕方がないから、華の前に立つことだけは許してあげる。  だけど、それは認めたってわけじゃないんだから」 「え?」  訳が分からないまま暁を見上げると、彼女は妖艶な笑みを残して身を翻した。  まるでそのタイミングを見計らっていたのかようにドアが開き、華さんが滑り込んでくる。 「なっこ、万事解決。  ボスが今からミーティングできるかって言ってたけど」 「分かった。行くわ」 「待った方がいい?」  こんな事が起きた後だから、なるべく傍にいた方がいいと思っているのだろう。  華さんは常の無表情を若干曇らせながら暁に問いかける。  その問いに、なぜか暁はチラリと僕へ視線を流した。
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