華に狼、暁守る華

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「ううん、大丈夫。  ボスとのミーティングの席は、ディナーになると思う。  だから華は、佐藤課長とディナーに行ってきてね」  だがその視線は、一瞬で華さんへ引き戻される。  男に向ける笑みとは違う、邪気の抜けた素直な笑みを華さんに向けて、暁は軽やかに続けた。 「どうせだから、普段行かないようなお高いフレンチでも御馳走してもらいなさい」 「え?」 「え? なっこ?」 「じゃあ、我らのスイート・スイート・ホームでね。  ……佐藤課長、送り狼したら、その首、掻っ切りますから」  最後に底冷えするような視線を僕に向けて、暁はオフィスから去っていった。  どこか遠くからチーンッとエレベーターが開く音が聞こえてくる。  ……送り狼なんて真似はしない。  致すならばそんな姑息な手は使わず堂々と……って、違う!! 「……華さん、ディナーに」 「フレンチは、嫌いです」  行くかい? と口にするよりも、華さんがスパッと言い切る方が早かった。  暁の許可が下りたというのにあっさり玉砕してしまった僕は、ピシリと音を立てて凍りつく。 「だから、ラーメンがいいです」 「は? ラーメン?」  ラーメンというよりアーメンという心境なんだが、僕は。  そんなことを思いながら華さんを見ると、華さんは前髪のカーテンを作りながら、なぜかモジモジとしていた。  そんな華さんも可愛らしいけれど……あれ?  僕は、ディナーの誘いを断られたんじゃなかったっけ?
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