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「お、美味しいラーメン屋さんがあるんです。
お野菜たっぷりであっさりな味付けなんですけど、しっかり美味しくて……
替え玉も、できるんです。
サイドメニューの餃子がまた美味しくて……」
華さんの両手がワタワタと動く。
いかにそのラーメン屋が美味しいのか、必死に説明しようとしているのに言葉が追いつかないといった様子だ。
「……ディナーで、ラーメン屋さんに行きたいの?」
ようやく華さんの言いたいことを理解した僕は、呆けた顔で華さんを見上げた。
そんな僕の言葉に、華さんは必死に首を縦に振る。
「僕と、ディナーに行くのは、嫌じゃないんだね?」
「私は、フレンチが嫌いと言っただけです。
ディナーに行かないとは、言っていません」
「ラーメン、好き?」
「麺類はどれも好きですが、ラーメンは格別です」
グッと両手を握り締めた華さんが顔を上げる。
前髪に隠された瞳が、キラキラと輝いていた。
休憩時間に美味しいお菓子やお茶を前にした時と同じ反応だと気付いた僕は、思わずプッと吹き出してしまう。
「?」
「いや、そのラーメン、楽しみだなと思って」
僕は椅子の背もたれに掛けていたジャケットを取りながら席を立つ。
その仕草を見た華さんの空気がパッと華やいだ。
「そのお店、どこにあるの?」
「会社の近くなんです。
時々なっこと一緒に行くんですけど……」
歩く僕の隣に、華さんが並ぶ。
いつになく近い距離と新たに知った華さんの一面に幸せを感じながら、僕はオフィスの電気を消した。
《 END 》
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