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……お前が妙な空気を作り出してるからみんな気になって帰れないんだっつのっ!!
僕は思わず手元にあった書類を怒りにまかせて握り潰した。
見るも無残に変形した書類を見て、徹夜でそれを作り上げた部下が悲鳴にならない声を上げているのが分かったが、僕はあえてそれを視界から締め出した。
僕にとっては、どんな商談よりも華さんに関わる懸案の方が重要、かつ重大なのである。
「えー、私は仕事終わったよー? 帰ろうよー」
「私は自力で帰れる。
暇なら先に帰りなさい」
「えー、ヤダー」
美人が集まることで有名な秘書課の中でも一、二を争う美貌と、その美貌を引きたてる辣腕で暁夏子という女は他部署でも有名だ。
そんな美女が我が課の愛すべき小動物・華さんに喰い付きそうな勢いで迫っている。
明らかにそっちの気を垣間見せながら。
こんなハプニングを、普段から僕と華さんのやりとりをウォッチングしているこの課の人間が見逃せるわけがない。
みんなが帰らないと、華さんは帰らない。
だがその周囲は、華さんが気になって帰れない。
このままではズルズルと全員が意味もなく残業することになる。
僕ははらわたが煮え繰り返るような怒りというか、焦りというか、対抗意識というか、ともかくそういったドロドロした個人的な感情を一旦無理矢理どこかに追い出そうとした。
華さんが関わる懸案が第一というのは変わらないが、その懸案は周囲を帰らせないとどうにも片付けることができない。
だからまずは課長として、この硬直状態を脱する方法を考えるべきだと、無理矢理自分に言い聞かせて頭を回転させる。
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