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「……ってコラーッ!!」
僕は思わず椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。
様子をうかがっていた部下達が混乱したかのように僕と二人へ交互に視線を飛ばしている。
だが二人の動きは僕の声でも周囲の視線でも止まらない。
暁は華さんの膝の上に乗ったまま電話に手を伸ばし、華さんはメガネを外すとサイドでまとめていた髪を解く。
「課長、緊急事態です」
やっと視線を向けてくれたかと思えば、向けられた言葉は実にそっけない。
一切の事情を説明しないまま、華さんは暁から脱がせたジャケットに腕を通した。
どこかへ連絡を終えた暁が華さんの膝の上から下りて華さんの背後に立つ。
手にした櫛とヘアゴムから、髪をいじるのだろうということが分かった。
「緊急事態って、華さん……」
「申し訳ありません。
10分ほどお時間ください」
メガネを外した華さんが、真っ直ぐに僕のことを見つめる。
メガネを外した華さんの素顔を見るのは初めてのことだった。
遮るものがないと華さんの瞳はより強く、より済んだ色をたたえて僕の心を射抜く。
「はい、できた」
華さんの瞳に見惚れている僕が何も言えずにいる間に暁はヘアセットを終えたようだった。
暁の言葉を受けた華さんが立ち上がる。
キリッと髪をまとめ上げてお堅いジャケットを纏った華さんの姿は、元々背格好が似ていることもあって、暁に似ていると言えなくもない。
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