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「本当に……何とお礼を言ったらいいのか……」
「あなたに喜んで頂けることが、私の何よりの至福です。本来あるべき姿に復元できたことに、私自身ほっとしています」
復元は繊細で、神経を極端に使う仕事だ。だから依頼者が喜ぶ姿に、涙を流す姿に、心底安心する。
生命を復元させることに成功した、と実感する。男は懐中時計を、その存在を胸に押し当て、感触を重量を音を、全てを意識する。
たっぷり三分、時折涙を流しながらも、その存在をしっかり認識した男は、席を立った。深々と腰を曲げた。
「本当に、ありがとうございます」
「大事に、してあげて下さい」
「……はい」
扉の上の鈴を鳴らして、店を後にした。復元屋は振り返った。大声で、言った。
「勝っちぃ!」
「うるせぇ」
来店したのは、二人だった。女性は肩身が狭そうに、けれど復元されて安堵の表情を浮かべていた。
復元屋の言葉にも、彼女は力強く頷いた。懐中時計が破壊されることは、もう二度とないだろう。
破壊屋は大股で歩み寄り、対面に腰を沈めた。喜色満面が、無性に腹が立つ。
「勝ちぃ!」
「……」
「まあまあ、そう怒んなよ。あの二人の仲が深まったのは、お前のおかげでもあるんだからさ」
「嫌味か」
「そんなんじゃないよ。前にも言ったろ。一度壊れることでより深くなるって。お前が壊したのは懐中時計だけじゃなく関係もだが、俺はそれを含めて復元したんだ。始まりがお前じゃなきゃ、俺は何の役にも立たなかったさ。見たか、二人の左手」
「お前の持論も、時には的を射るんだな」
来店した二人の左手の、薬指には、指輪がはめられていた。
復元した懐中時計のように、それを作った祖父の言葉のように、二人の時間は、永遠を刻むようにコチコチと進んでいた。
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