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「俺がこの破片から分かったことは、この懐中時計はクォーツ式で、文字盤は英数字、直径は六センチで色は金色、そして真鍮でできていたってことぐらいだ。だからさぁ」
「断る」
「まだ言ってないだろ」
「言わなくても分かる。破壊前を教えろ、だろ」
「正解!」
「俺は壊す専門だ。直すのに手は貸さん。それにもう三日も前のことだ、忘れた」
「俺にそんな嘘は通用しないぞ。俺もお前も記憶力はいい方なんだから」
破壊屋はばつが悪そうに顔を歪めた。彼は全てを覚えていた。
擦り傷の箇所も傷具合も、浅い箇所深い箇所長い箇所も。剥げ落ちて色褪せしてる箇所もその傷み具合も。
背面に彫られた日付もイニシャルも、秒針短針長針の正確な長さも、全てを記憶していた。
しかし、それを明かすつもりはなかった。破壊した張本人が直すのを手伝うなんてちぐはぐな行為に、彼は納得できなかった。
だから、反発した。
「俺はただ壊すだけだ」
「俺は直すだけだ。だが俺には限界がある」
「そもそも、だ。それを直して何がある。あのカップルの関係はもう壊れてるだろ」
「それ以前に形見なんだ。直す義務がある」
「それはお前の問題で俺には関係ない」
「壊したのはお前だろ」
「俺は依頼を受けただけだ。依頼する方が悪い」
「おいっ」
復元屋は悲しみと怒りが混合した感情を、表情に表した。
「俺たちは依頼されるおかげで生きていけてるんだ。依頼者を馬鹿にするな」
「物を壊す行為に、俺は正当性を見つけられない。なのに依頼は後を絶たない。あいつらは、破壊されることを楽しんでるんだ。それが人間だ」
「いや、何かを壊す行為は衝動的な行為だ。必ず後悔がやってくる。破壊を『悪』と決めつけるな」
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