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破壊屋は多少蓄えたあごひげを撫でた。破壊屋に破壊行為を説くなんて。滑稽に思えて、破壊屋は微かな笑いを洩らした。
「お前には敵わん。だが」
表情を引き締めて、断言するように言った。
「『善』でもないはずだ」
「そうだな。破壊は空しくて、儚くて、脆い行為だ」
「俺はそれを仕事にしてるんだ」
「ん?そうか、失言だった、すまない。でも俺が言いたいのは、破壊は衝動的な行為であって、誰も悪くないってことだ。そのために俺がいる」
懐中時計だった破片を、手のひらに乗せた。復元屋の耳には確かに、コチコチと時を刻む音が、生命の音が響いている。それを復元させる。
懐中時計に生命を吹き込む。永遠の時を刻めるように。そのためには、破壊屋の力が必要不可欠だった。それに、と復元屋は思う。
「お前はあのカップルの関係は壊れてると言ったが、俺はそうは思わない」
「何故だ。女は形見を壊したんだ。修復不可能に壊れてるだろ」
「人間関係は、一度壊れることによって、より深く想いが通じ合えるようになるものだ」
「持論か。あの二人には当てはまらんと思うがな」
「そうかな。この懐中時計は『二人の形見』なんだ。背面にA・I──愛とイニシャルが彫ってあるそうだ。想いが男性にしかないのならこれを直した所で、空しいだけじゃないか」
破壊屋は鼻白んだ。自分と目の前の男は正反対だ、と改めて認識する。性格も、体型も。
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