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筋骨隆々な自分に対し、ひょろりと背が高く顔立ちも整っている。一つの思考しか持たない自分と違い、柔軟で数多の考えを持っている。
だから噛み合わない。相容れない。
しかし相容れないからこそ同じ土地で別々の看板を掲げ、一つ屋根の下で暮らしている。
表と裏、光と影のように。
感情を表に出さない自分と違い、コロコロと変わる表情も見てて気持ちが良い。
破壊屋も復元屋も相手のことが、『人間的』に好きなのだ。微笑をたたえ、復元屋は言う。
「何なら賭けてみるか。これを受け取りに来る時、一人か、二人か」
「面白いな。俺は男一人だ」
「なら俺はカップルで、と。というわけで」
満面の笑みだ。破壊屋は嫌な予感を覚える。
「傷、教えてちょーだい!」
「結局それか……」
復元屋はテーブルにそれを置いた。
コチコチと音を鳴らす、時を刻む、懐中時計を。赤い針が一秒一秒楽しそうに、嬉しそうに動く姿に、笑みを深める。
同様の反応を、対面に座る男から受け、裏返した。背面。色褪せ、所々剥げ落ちている中でもしっかり存在感を放っている、二〇一〇年六月二十日、A・I。
そしてそれを囲むように付けられた、大小様々な擦り傷の数々。懐中時計を復元させた。
破壊直前の姿に、『二人の形見』の姿に、その身を現した。
「あ……ありがとう、ございます」
対面の男の目から涙がこぼれた。手がそっと、伸びる。愛しい我が子のように抱き上げ、撫で、そして包み込んだ。
手放さない、と誓うように。
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