DD!2.5

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 同じ頃、同じ町の少し離れた場所では――。  少し疲れた桂奈と大輔が歩いていた。 「なんか……面倒に巻き込まれちゃったね」  桂奈が肩を落として言う。隣の大輔は無言で頷いた。  大輔と桂奈は、最寄りの所轄署から戻ってきたところだった。スペインバルでの喧嘩――三角関係の修羅場――で、婚約者が怪我をさせられたと、店のオーナーである鹿野英孝(かのひでたか)が、被害届を出したいと申し出た。  喧嘩の現場に居合わせた警官の二人が、そう言う英孝を放り出すわけにはいかず、この繁華街を管轄するO南署に英孝を連れて行った。そしてO南署の刑事課に事情を説明し、英孝を預けて――押しつけて――きた。 「婚約者の……佐藤里沙(さとうりさ)さんが怪我したのは気の毒ですけど、あの鹿野って男、よく警察に行く気になりますよね?」 「本当だよねぇ。普通、浮気がバレて恥ずかしくて、警察なんか行けないよね」  大輔と桂奈は、ウンザリと息を吐いた。  最寄りの所轄署で、英孝から聞いた話はこうだ。  英孝はO市内でいくつかの飲食店を経営している。今回の事件の現場となったスペインバルも英孝の店だった。  そこで半年後に挙式を控えた婚約者――佐藤里沙と食事中、彼女と並行して交際していた川辺絵里に襲われた、と英孝は言うのだ。絵理は日常的に束縛が激しく、そんな約束もしていないのに強引に結婚を迫ってきて、英孝は彼女に悩まされていた、らしい。  要は自分の店で婚約者とデート中、浮気相手に乗り込まれただけのことなのだが、英孝は自分が浮気していたという事実を誤魔化したいのか、やたらと難しい言い回しで絵理を非難し、所轄署の刑事に彼女の逮捕を迫った。  しかし、被害者の里沙が同行していないため、所轄署の刑事にできることは少なかった。まずは里沙の怪我の診断書を取って、それから里沙と一緒に出直してくれ、と助言するぐらいしか彼らにできることはないのだが、英孝は納得しなかった。  刑事課の窓口で粘る英孝を、桂奈と大輔は所轄署の刑事に押しつけ、そそくさと退散してきた。  浮気男の我がままに、これ以上付き合っていたくない、というのが二人の本心だった。 「あ~あ、ヤな気分! 大輔くん、飲み直そうよ!」  所轄署を出て一言目に、桂奈がそう言った。先輩警官に言われたら大輔も断れないし、今夜は最初の予定通りとことん桂奈に付き合ってもらいたかった。
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