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そして戻ってきた繁華街で次の店を探している途中、桂奈がふいにぼやいた。
「それにしても……なんか、おかしいよねぇ」
「……はい?」
なんの話か、と隣の桂奈を窺うと、桂奈は刑事の顔になっていた。鋭い視線で前を睨んでいる。
大輔は少し怯んだ。
「おかしい、ていうのは?」
「バルでの茶番、だよ。面倒には関わりたくないけど、妙に気になっちゃって」
刑事の性かな、と桂奈は腹立たしそうに呟いた。
先ほどの厄介事をさっさと忘れて飲み直す予定だが、桂奈の刑事の勘がそうさせてくれないらしい。新米刑事の大輔にはピンと来なかったが、先輩刑事に付き合うことにした。
「なにか不審な点、ありましたか? あの鹿野って男が最悪、てことはわかりますけど……」
「あいつは単純な最低野郎って感じだけど……あの婚約者がねぇ。いきなり浮気相手に乗り込まれて動揺したんだろうけど、怪我までさせられたのに、帰っちゃったりする? そんなに動揺するくらいなのに、あんな危ない女の言うことスンナリ信じちゃうのも謎だし」
「……確かに、言われてみると変な気もしますけど……」
首を傾げると、桂奈が小さく息を吐いた。
「あの修羅場も、なぁんかウソ臭い気がしたんだけど……大輔くん、なんにも感じなかった?」
大輔は彼なりに真剣に考え、それから首を横に振った。桂奈の肩がカクリと落ちる。
「大輔くんてさぁ……もってる割に、勘が鈍いっていうか……トロいとこがあるよねぇ。そんなんで交番時代、職質上手くできたの?」
恐るべき女刑事の勘に、大輔は震えた。
「……仰る通りです。俺、職質苦手で……よく見当違いをしてしまって、パトロール中に先輩に叱られました」
「え~、じゃあ大輔くんの武勇伝てホントにほとんど、ただの運だったんだ!」
「は、はい……」
大輔は小さくなるしかなかった。
「羨ましいけど……大輔くんがイケメンじゃなかったら、イジメてたな、あたし」
「ちょっ、桂奈さん、怖いこと言わないでくださいよ!」
「警察がどんだけ陰湿な組織か、知らないわけじゃないでしょ?」
さらに恐ろしいことを言って、女刑事はニヤリと笑った。
ヒーッ! と本気で震え上がる大輔を、一転、桂奈はカラカラと明るく笑い飛ばした。
「ね、大輔くん。カラオケしながら飲まない?」
チェーン店のカラオケ店の前で、桂奈は足を止めた。
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