155人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「え? カラオケ、ですか?」
「うん! なんかスッキリしないし……大輔くんも今日は泣きたい気分でしょ?あたしがド○カム歌ってあげるから……大輔くん、泣いていいよ!」
桂奈の言うシステムがいまいち理解できないが、周りの客を気にせず大騒ぎできる個室で飲むのもよいかもしれない。
なにせ、大輔の話はあまり大きな声で話せる内容ではないのだ。
(男同士の痴話喧嘩、だもんな……)
「……いいですけど、俺、あんまり新しい曲とか歌えないですよ?」
「あたしだってそうだよ! お互い、好きなの歌えばいいよ!」
豪気な女刑事は、大輔の手に腕を絡め、ノリノリでカラオケ店に向かった。
大輔は苦笑いしながらも、桂奈の明るさに救われてもいた。
失恋? のショックの後に、妙な修羅場に巻き込まれた。大輔は桂奈の言う通り、とことん泣きたい気分だったのかもしれない。
桂奈に引きずられるように、カラオケ店の入り口に向かう。大輔がなにを歌おうか悩んでいると、遠くで男の叫び声が聞こえた。
「待てー!」
大輔がよく知る、男の声だった。
ギョッとして振り返ったのは、大輔だけではない。
「えっ?! なんで小野寺さん?!」
桂奈が振り返り、大輔の心を代弁した。
繁華街の路地を、遠くから晃司が走ってくる。
「か、管理官?!」
今度は大輔が声を上げた。晃司の後ろに、彼を追うように駆ける穂積を見つけた。
大輔の心臓が凍りつく。
(どうして……二人が一緒にいるんだ?)
走って近づいてくる二人が、大輔と桂奈を見つけた。
「大輔! 桂奈! その女捕まえろ!」
「堂本巡査! 古谷巡査長! その女を逮捕してください!」
晃司と穂積が、同時に叫ぶ。
瞬時に対応したのは、先輩警官の桂奈だった。
「え?! なに?!」
事態を把握するよりも早く、桂奈の体は上司の命令に素直に反応した。
大輔たちの前を、女が駆け抜けようとしていた。
桂奈が右足を出し、女がつまずく。女刑事は容赦なかった。前のめりになった女の腕を取り、素早く彼女の後ろでひねり上げる。
「イタッ!」
女が悲鳴を上げた。
「ああっ!」
大輔は叫んだ。
「あ!」
桂奈も気づいて声を上げた。
桂奈が腕を縛り上げている女は、スペインバルでデート中の英孝と里沙のテーブルに乗り込んできた――絵理だった。
「で、でかしたぞ、桂奈……」
最初のコメントを投稿しよう!