【第4話】第2のスイッチ

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「めずらしいね、大学以外で練習してるなんて。しかもスケールをさ……」 探りを入れるようにそう言葉を投げかける。 カールはぱたんとケースを閉じ、振り返る。そして、不思議そうな顔で言った。 「何言ってんだよ。当たり前のことだろ?」 くらり、と一瞬目の前が揺らいだ。この部屋に足を踏み入れたときから感じていた違和感が恐れと変わり、腹の底に沈んでいく。 「あ、そうそう! ルイ、お前に会わせたい人がいるんだよ!」 明らかなルイの変化も意に介さず、カール・ツェルニーは楽しそうに言葉を続ける。 「この国を変えてくれるかもしれない人なんだ! ここ最近は大学よりもその人の話を聞きにいっててさ……ルイ、お前も作曲ができるようになるかもしれないんだよ!」 呆然とカールの顔を見つめていたルイ。それでも、『作曲』という言葉には否応なしに反応してしまう。 「作曲……」 「そうさ! だっておかしいじゃないか、なんでリューリスにばかり表現の自由が許されるんだよ? あいつらだってただの人の子だろ? そのくせヴィルトー、いや、国民にはリュールを作れと演奏を命じてる。俺たちは生まれながらにリューリス、そしてランゲ・リューリスに従うことを定められてるんだ。こんなのフェアじゃない。 音楽はもっと自由で、対等であるべきなのに! なあ、お前もそう思うだろ?」 カールの様子は次第に熱を帯び、じりじりとルイの目の前に迫ってきていた。 まるで何者かが、カールの口を勝手に使って喋らせている様に見えた。 「か、カール、落ち着けよ! なんか変だよ、さっきから! どうしたのさ!」
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